実験計画法(Design of Experiment, DoE)について、初めての方にもわかりやすく、考え方を中心に説明します。
実験計画法の目指すところ
まず初めに、実験計画法とはなんのために使われるものなのか、なにを目指しているのかについてを紹介します。
実験計画法(Design of Experiment, DoE)は日本工業規格(JIS)の中で次のように定義されています。
本質的に実験計画法は,効率的かつ経済的に,妥当で適切な結論に到達できるような実験を計画する方策である。
JIS Z 8101-3 : 1999
(中略)
適切に計画され実行された実験では,結果の統計的な分析と結果の解釈が,往々にして簡単になる。
みなさんが実験を行う目的はなんでしょうか?
「AとBのどちらがよいか判断したい」
「AよりもBのほうがよいはずだから証明したい」
「もっと性能のよいものを探したい」
・・・
などなど。判断を下したり、自分の主張を証明したり、より高性能・高品質・低コストを追求したり、なんらかの結論を得たいと考えているはずです。
そんなとき、正しい結論を得たい!と思うのは当然のことですよね。さらには実験を効率的に実施して、素早くかつ低コストで結論にたどり着ければ理想的です。
実験計画法はそんな要望に正しい方向性を示してくれます。
では、効率的のよい実験計画とはどのようなものなのでしょうか?改めてJISを参照すると次のように書かれています。
良い実験計画とは,
- 因子や水準の選択,及び前提条件の記述に,事前の知識や経験を組み入れるものであり,
- 最小の努力で,適切な情報をもたらすものであり,
- 実験を始める前に,その計画ならば,必要とされる精度で実験の目的に達することができることを保証するものであり,
- 多くの研究と同じように,継続的に行われる性格のものであり,
- 実験の進行中に誤解を避けるために配置と実験処理の順序を明確にするもの,
であろう。
JIS Z 8101-3 : 1999
bとcについてはかなり多くの方が同様の意見を持っているのではないでしょうか。
結局のところ、高効率&高精度の実験を行い、適切な結論を導くための方法論が実験計画法です。
実験計画法の効率
実験計画法が効率を求めていることを理解していただいたとこで、どの程度効率がよくなるのかをみてみましょう。
実験計画法では以下の2つの側面で効率が良くなります。
1.データ利用の効率
実験計画法を用いることにより、因子の効果を算出する場合のデータの利用効率が高まります。
以下は1因子実験(実験計画法でない)と要因計画(実験計画法)を比較した例です。
同じ実験回数8回で、3つの因子(パンの種類・マスタードの有無・焼き時間)を変化させてデータを集めています。

ここでパンの種類による影響を計算しようとする場合、1因子実験と要因計画で使用できるデータの数に大きな違いが現れます。

実験計画法を用いる場合の方が2倍の数のデータを利用できていることが分かります。
もちろんこれは他の2つの因子(マスタードの有無・焼き時間)に関しても同様です。
今回は3つの因子を取り上げましたが、1因子実験と要因計画の効率の差は因子数が増えるほど増加していきます。

このように実験計画法を用いた実験では、取得したデータを効率よく利用することができます。
2.必要実験数の効率
実験計画法では選択する計画によって、実験の精度と必要実験数のバランスを調整することができます。
以下のグラフはスクリーニング実験を行う際の因子数\(k\)と必要実験数\(n\)の関係を表したものです。

実験計画法である要因計画と直交表の2つがプロットされており、直交表の方が大幅に実験数を削減できていることがわかります。
例えば7因子の場合、要因計画(128回)に対する直交表(8回)の効率は\(\frac{128}{8} = 16\)倍と見積もることができますね。
このように実験計画法ではその目的に合わせて(精度重視 or 効率重視)必要な実験数を調整することができます。
実験計画法の構成
次に実験計画法の全体像を確認してみましょう。
実験計画法は大きく分けて、良い実験計画を作成するための計画法と得られたデータを分析する解析法の組み合わせにより構成されています。

計画法と解析法にそれぞれ特徴があるので実験の目的に合わせて上手く組み合わせて実験と解析を行う必要があります。
よく耳にする直交表は実験計画法全体の中でも計画法に含まれます。直交表を使って集めたデータから得られる情報はどの解析法を組みわせるかによって異なる、というわけです。
計画法および解析法という分類はこのサイト独自の用語です。
実験計画法でわかること
実験計画法をつかって得られたデータからどんなことがわかるのでしょうか?
実験計画法を用いた実験で得られる情報は解析法に紐づいています。1つのデータについて、複数の解析法を適応することもできます。
主効果プロット-視覚的に効果をチェック
実験で調べたい因子の効果の有無を視覚的に確認できるグラフを主効果プロットといいます。

主効果プロットの傾きを比較し、傾きが大きければ効果がある、と視覚的に判断することができます。
品質工学の分野では要因効果図とも呼ばれます。
分散分析-統計的に効果をチェック
グラフから主観的に判断する主効果プロットに対して、統計を駆使して判断する方法が分散分析です。
分散分析表と呼ばれる表が作成され、F 検定によって効果の有無を客観的に判断します。

回帰分析-傾向把握&予測
効果の有無だけでなく、因子の水準を変更した際の傾向の把握や変化の予想を行う方法が回帰分析です。最も基本的な最小二乗法などが含まれます。
グラフに近似曲線を引いて傾向を把握する手法はよく見かけるのではないでしょうか。

実験計画法のデメリット
とても便利に思える実験計画法ですが、良いことばかりではありません。実験計画法を使う際のデメリット、それは結果がすぐにわからないこと。
たとえば、全18回の実験が含まれる直交表(L18直交表)により計画した実験の場合、すべての実験が終わるまで解析を行うことができません。
実験計画法を用いる際は、データの集め方に関する考え方を切り替えなくてはなりません。
少しの間の我慢で大きな成果を得よう、というわけですね。
少量のデータを徐々に集める
大量のデータを一気に集める
まとめ
実験計画法に関して、数式を使わずにわかりやすく解説してみました。
デメリットまで読んでいただくと以下のような不安を抱く方もいらっしゃると思います。
たくさん実験したのに、万が一失敗していて全部のデータが台無しになるのでは・・・
このような不安を取り除くために、このサイトで丁寧に説明していこうと思います。
実験計画法をどんどん使いこなし、効率的に適切な結論が得られるようになりましょう!
更新履歴
2025/03/07 公開
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